お知らせ

10月26日

八薙 玉造
[文芸学科 特任准教授]

自分にはないものも吸収し、自分ならではの言葉で物語をつくる

 

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八薙 玉造[大阪芸術大学 文芸学科 特任准教授]  担当授業:ライトノベル論、小説論

ライトノベル作家。大阪芸術大学文芸学科卒業。『鉄球姫エミリー』で第6回スーパーダッシュ小説新人賞大賞を受賞し、2007年に同作品でスーパーダッシュ文庫(集英社)からデビュー。近著に『拡張幻想サクリファイス』(KADOKAWA)、『異世界最強トラック召喚、いすゞ・エルフ』(集英社)、『PROJECT SCARD ~月影の双翼~』(講談社)など。小説以外にテレビアニメのシナリオも手がける。最新作はテレビアニメ『デキる猫は今日も憂鬱』、『好きな子がめがねを忘れた』(いずれも2023年7月放送開始)。アニメーション制作会社GoHandsにも所属。

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2023年9月29日

 

▶︎たくさん本を読み、目的を決めて書く。その繰り返しで、書く力が磨かれていく

 

仲間と意見交換し、視野を広げて小説を書き続けた学生時代

もともと漫画家に憧れていたのですが、中高生の頃からライトノベルにハマりました。『ロードス島戦記』や『スレイヤーズ』『ルナル・サーガ』、さらに海外小説『ホビットの冒険』『ドラゴンランス』などファンタジー系の作品が好きで、こんな物語を書ける小説家になりたいと、大阪芸術大学の文芸学科に入学しました。

大学では小説は一生懸命書いていたものの、あまり真面目に授業を受ける方ではありませんでした(笑)。その中でも印象に残っているのは、SF作家の眉村卓先生(元文芸学科教授)や、今も教鞭を執られている出口逸平教授の授業です。各自の作品に対して先生や学生同士がコメントしあう合評形式で、自分では思いもよらない意見や考え方にふれることができ、たくさんの発見がありました。

在学中に熱中したのは、テーブルトークRPG(TRPG)。いわばアナログ版のロールプレイングゲームで、ストーリーやキャラクターを自分たちで作っていくので、小説を書く勉強としても大いに役立ちました。当時、友人たちと「TRPGサークル 遊」を立ち上げたのですが、今は教員としてその顧問を務めているのですから、不思議なものです。周囲の友人から色々なエンタメの楽しさを教えてもらうなど、自分にはないアンテナを持つ仲間に出会えたのも、学生時代の収穫ですね。

 

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創作のモチベーションは、“上げる”よりも“減らさない”

 卒業後はアルバイトのかたわら、ひたすら小説を書き続ける日々。就職する同級生を見て将来が不安にならないわけではなかったものの、「自分にはこの道しかない」「自分一人なら何をしても食べていける」と思っていました。最初は新人賞に応募するたびに「これでデビューして、ヒットして…」と夢が広がり、落選してはガックリの繰り返し(笑)。でも一度落ち込むと、また気持ちを上げるのが大変で…。そこで、一つの作品を完成させて応募したら、すぐ次の作品に取りかかるようにしたんです。落選しても「こっちが最新の傑作だ!」と切り替えて、執筆と投稿に励みました。

  念願の賞を受賞してデビューしてからも順風満帆というわけではなく、筆1本でやっていけると確信するまでにはけっこう時間がかかりました。それもあって、仕事がないと不安なので、やるべき時は集中して頑張っています。ふだんから意識しているのは、モチベーションが減らないように気をつけること。あまり落ち込んだり考えすぎたりしない、健康に気をつける。それから好きなゲームやアニメ、マンガなど他の創作物をこまめに摂取することも大事です(笑)。

小説家としての喜びを感じるのは、やっぱり本が刷りあがって形になった時。ライトノベルとイラストは切り離せないものなので、自分の生みだしたキャラクターが絵になった時も、ワクワクします。今は新しい企画を少しずつ進めており、それを納得のいく作品にして、できれば長期のシリーズを書きたいですね。

 

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バトルファンタジー系を中心に著書多数

 

アニメのシナリオライターとしても活躍

 ライトノベルの仕事の中でアニメ制作会社のGoHandsさんとつながりができたのがきっかけで、テレビアニメのシナリオも手がけるようになりました。作品によっても違いますが、オリジナル作品であっても大枠のストーリーや構成は決まっていて、僕は具体的に細部をつくっていくことが多いですね。シリーズもののアニメの場合、各話の見所とか盛り上がりだけでなく、それまでの流れや登場人物の行動目的などを盛り込んで展開させることが重要。また、絵を描いて動きをつけるには労力もコストもかかるので、制作側の作業量を考えてシーンや場面設定をするのも、小説との大きな違いです。

  2023年7月から放映されている2作品『デキる猫は今日も憂鬱』『好きな子がめがねを忘れた』では、初めて原作ものをシナリオ化しました。家事万能な猫が登場するほのぼの系と、中学生の純真ラブコメという、これまで書いてきたものとは違うジャンルですが、こういうテイストの作品も好きなので、楽しんで取り組みました。注力したのは、原作の魅力や面白さをそのままいかし、できる限り再現すること。完成作が放映される時、オリジナル作品だと自分のシナリオを添削する感覚で見てしまうのですが、原作ものだと気負わずにファン目線で楽しめます。「作品が大ヒットしますように!」と念じながら、一ファンとして鑑賞しています(笑)。

この2作品には、どちらもアニメーターや作画監督などスタッフとして大阪芸大の卒業生も関わっています。この業界には大阪芸大出身の方が意外に多く、同窓生で同じ作品に関われることも嬉しいし、お会いした時に芸大時代の思い出話ができるのも楽しいですね。

 

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左)『デキる猫は今日も憂鬱』Ⓒ山田ヒツジ・講談社/デキる猫は今日も憂鬱製作委員会 (https://dekineko-anime.com/)

中)『好きな子がめがねを忘れた』Ⓒ藤近小梅/SQUARE ENIX・製作委員会がめがねを忘れた(https://anime.shochiku.co.jp/sukimega/)

 

学生一人ひとりの「尖った部分」を大切にサポートしたい

 母校の教員としてライトノベルの授業を持つことになった時、学生時代にとてもためになった合評を多く取り入れることにしました。モットーは、改善点だけでなく良い所も指摘し合うこと。僕が講評する場合も意見を押し付けすぎず、できるだけ一人ひとりの「尖った部分」を大切に、それぞれの良い所を伸ばすよう心がけています。指導するにあたって、自分の作品づくりを振り返り、今まで何となく感覚でやってきた手法や技術を再確認できました。Z世代の現状やカルチャーにふれることも含め、こちらが教えて与えるよりも得るものの方が多い気がしています。

  小説家やシナリオライターをめざすなら、まずは当たり前のことですが、たくさん本を読んでほしい。僕自身も読書をして大量の文章にふれる中で、ストーリーの展開やシーンの盛り上げ方などが自然と身についたように思います。また、目的を持って作品を書くのもおすすめです。たとえば「アクションシーンを多めにする」「会話だけで構成する」など、テーマを持って書いてみると、自分の得意・不得意が明確になり、エンタメ性を高めるコツもわかってきます。ライトノベルのジャンルは多種多様。自分の好きなものを、エンタメ作品として自由にのびのびと表現してほしいですね。

通信教育部でも「ライトノベル論」や「小説論」を担当しています。通信教育部生の皆さんは、世代や経歴の幅が広く、書く作品も通学課程以上に多彩なジャンルに渡っているのが特徴的。それだけに授業でも、より多様なバックグラウンドの方々に伝わりやすい表現を心がけています。スクーリングは教員や他の受講生の皆さんと直接ふれあえる場なので、積極的に活用してほしいですね。ただし限られた時間内では、スムーズなやり取りが難しい場合も。聞きたいことがあれば事前にまとめておくなど、ある程度準備をしてから受講していただくと、より深い学びが得られると思います。

 

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スクーリング「ライトノベル論」授業イメージ