北口明子さん[写真学科2013年3月卒業]
通信教育部写真学科卒業生の写真家・北口明子さんが、2024年10月1日~12日、京都・大山崎の写真ギャラリー「ナダール」にて、自身6年ぶりとなる個展「雪おこし、日々」を開催しました。
故郷・石川の雪景色を写したモノクロ作品17点を展示
今回の個展で展示されたのは、北口さんが生まれ育った石川県小松市の冬の風景を撮影した作品群。モノクロの銀塩写真に油絵具で彩色を施し、北陸ならではの雪の質感を表現しました。
「2018年から中国・深圳に約4年ほど滞在したのですが、夏の長い現地の気候になじめず、自分の中に雪国の風土が沁みついていると実感。それを作品に投影し、北陸独特の重くて湿った雪の湿度や空気感、匂いなどを出せたらと思ったんです。印画紙や定着液を変えてみたり、絵具を細かく調合したりとトライ&エラーを繰り返して、自分なりの表現を追求しました」
大正時代などに日本で行われた「雑巾がけ」というピグメント技法を取り入れ、一枚一枚に油絵具で表情を加えた
北口さんは、地元JAで働いていた頃に広報の仕事を通じて写真の魅力にふれ、通信教育部写真学科に入学。故郷の自然などをモチーフに、主に大判カメラ(8×10)による撮影や古典技法プリントの作品制作に取り組んできました。在学中からグループ展や公募展に積極的に参加。卒業後、しばらくして横浜そして中国に滞在している間も、作品の制作と出展を続けていたそうです。
「帰国後に個展をしたいと考えていた矢先、故郷の石川で大震災が起こり、気力をなくしてしまって…。そんな時、偶然ナダールさんの公募写真展『めざせ個展』の募集を見つけて応募。『ナダール賞』受賞記念の個展ができることになりました。自力で個展を開くのはハードルが高いので、こうした機会をいただいてありがたいですし、また次のステップにつなげたいです」
10年以上前から撮りためた写真と向き合い、あらためて作品化
個展開催を支援したギャラリー「ナダール」代表の林和美さんは、北口さんの作品の魅力について「今は写真もネット上でいくらでも見られる時代ですが、北口さんが生みだす作品は、技術や思いのすべてが一枚に集約された世界にひとつのオリジナル。作品作りに対する作家の姿勢まで伝わってきます」と語ります。「大学で写真を学んでも、その後ずっと写真に関わり続けるのは大変なこと。作家の成長を応援したいという気持ちで、このギャラリーを作りました。北口さんにも、これからもずっと作品を作り続けてほしいですね」(林さん)。
東京・世田谷と京都・大山崎で展開する写真ギャラリー&ショップ「ナダール」。代表の林和美さん(写真左)も大阪芸術大学写真学科(通学課程)卒業生
通信教育部を卒業した今も、写真学科出身の先輩の誘いで海外でのグループ展に参加したり、写真学科長の織作峰子先生をはじめ教員のアドバイスを受けるなど、大阪芸大を通じたつながりに力づけられているという北口さん。「“卒業したらさよなら”ではなく、何年たっても先生方や先輩方が気にかけてくださり、たくさんの刺激や心強い助言をいただいています。通信教育部·通学課程や学科の枠を超えて、大阪芸大出身というだけで縁が生まれることも。これも大阪芸大で学んで良かったことの一つです」
ミニフレーム作品も展示販売。デジタルで終わらせず「写真を形にして飾る」楽しさも発信
今後も日常の何気ない風景を中心に一瞬一瞬を丁寧に切り取って、こつこつと作品制作に取り組み、展示・発表を続けていくことが目標。「写真は自分で眺めるだけでなく、展示して初めてわかることが多いのです。私も在学中に先輩から『どんな作品でもどんな場所でもいいから、年に一度は展示を続けなさい』と言われた言葉に励まされて、今まで続けることができました。今、写真を学んでいる皆さんにも、同じメッセージを伝えたいですね」